モジリ兄とヘミング

幸田尚子NAOKO KODA

見透かされた人生

突然の金縛り。
目を閉じたまま動けない。

今日は知り合いのツテで、子供の頃から大ファンだった宝塚のトップスターさんとお話が出来たまるで夢のような1日だった。
ホクホク気分のまま床に就いたところまでは覚えている。

気がつくと私の身体は石のように動かず、恐怖で息をするのもやっとになっていた。

金縛りに合うのは初めてではなかった。
そしてそれは、意を決して「フンっ!!」と無理矢理に起き上がれば解除される。
何度かそうやって金縛りから逃れてきた。

しかしその夜はなぜだかそれをやりたくなかった。
自分でも明確な理由は分からないが、宝塚スターと会えて覚醒していたのかもしれない。

私は金縛りを受け入れてみた。

探究心は、恐怖心を乗り越えるだろうか。

「来い。来い。来い」

すると、全身が更に硬直してきた。これはヤバイ。
やがて無数の鋭い光の大群が現れ、顔にバシバシとぶつかってきた。
光がぶつかるたびに、更に身体が固まる。これ以上は固まれない位には固まった。
怖い。怖すぎて限界だった。
「フンっ!!」と解除して楽になりたかった。

でも。

ここで諦めたら、もう二度とチャンスは無い。
私の中の何かがそう叫ぶ。
何のチャンスかは分からない。

私は、耐えた。

すると光は消え
次は金剛力士像のような恐ろしい鬼二体が現れた。
私の顔面スレスレまで近づいてきて私の人生を見透かすようにジッと見てくる。
鬼の目玉と私の瞼がひっつきそうな距離だった。

怖すぎた。辱めを受けてるような試されているような辛い時間だった。

しかしじっと私は耐えた。

すると鬼は去り、遙か遠くに扉が現れた。

扉はどんどん私に近づいてくる。

あの扉の中を見てしまったら、知ってしまったら、自分はこの世を去る事になる。そう思った。

「消されても構わない覚悟です。私は行きます」

そう心の中で深く静かに唱え、扉の中に意識を集中させた。

すると、扉がゆっくりゆっくりと開き始めた。

ドガガガガーギーと、古びた重い鉄の扉が開くような音が鳴った。

中に、何か、いる、、、!

扉が開いていく様を見ながら、私はここまで来てしまった事を後悔し始めていた。

扉の中には、ウネウネゴウゴウと手足の長いタコのような得体の知れない生き物がひしめき合っていた。
沼のような灰色なのに、七色にも見える。
それは醜くて、とても悲しく、恐ろしかった。

もうさすがに、フンしたかった。

しかしここまで来た以上逃げるなんて私には出来ない。

私は、心を静かにして
その醜いものをただ受け入れた。

すると小さな光が現れた。

手かがりの光だと思った。

私は雑念を捨てて、その光だけに意識を集中させる。

どんどん光が私に近づいてくる。

やがて光が私を包んだ。
乾燥した真っ白な光だった。

「とゅるぅん(高音)」

と音がした。ような気がした。

私は、
俗に言う、
幽体離脱ってやつをした。

夢じゃない。これは現実だと分かった。
そして突然の多幸感が私を襲う。
私の幽体がめっちゃ爆笑していた。

幽体離脱したからには、空を飛ぼうと思った。
しかし、空を飛ぶどころか、家からも出られなかった。

壁をすり抜けてみようともした。
顔半分まではイケた。
しかしすぐに押し戻されてしまった。

ふと見ると、布団に私の肉体はなかった。

俗に言う幽体離脱では、抜け出た幽体が自分の肉体を見て驚いてるのに。
布団にはなぜだかマスク(普通の)だけが一枚落ちていた。

あれ?マスクなんて最近してないのにな。

そんなことを考えていたら、突然、

シュバっ!!

と私は肉体に戻り、目が覚めた。

ドキドキしていた。
私はまさかの幽体離脱をしたんだ。
すぐにノートに今日の体験を書き留めた。

それから1週間後。
ふと布団を見たら、あの時と同じ位置にマスクが落ちていた。

私が見た光景は、未来だったのか?ただの夢?

それは誰にも分からない。


幸田尚子
福岡県出身 AB型

この体験をきっかけに宇宙と脳科学に興味を抱き、現在も趣味として研究中。

https://twitter.com/naokooya

-----------------------
★尚々書★
この1ヶ月後、当時所属していた劇団の舞台監督の塚本さんがまさかの幽体離脱のエキスパートだと判明。
私は家から出るコツを教わり
最終的に宇宙まで飛んで行ってしまう。
宇宙は赤くて、地球は美しかった。
----------------------------

キャスト一覧に戻る