モジリ兄とヘミング

鹿野真央MAO SHIKANO

犯罪者の告白

役者同士で、「今まで受けてきた演出家からのダメ出し」の話になることがある。
それはもう、みんな死にたくなるくらいきっつーいことを言われて育ってきているのです。今なら笑い話になるけど当時はめちゃくちゃ悩んだだろうな…。
私は演出家からのキツいダメ出しは回避してきたタイプの人間だけど、どんなことを言われたかちょっと振り返ってみることにしよう。

「しかちゃんの芝居は、ツルッツル」(当時流行した森ガール風40代女性)
…セリフの言葉面だけをなぞった実のない芝居を指して言われたダメ出し。ハタチくらいの時かな?当時は芝居に関して全くの素人だったので、このダメ出しの意味は全くわからなかった。

「特に言うことはないけど、ま、つまらないわよね」(見た目は老婆、心は少女70代女性)
…特に言うことはないとか言いつつ役者にとって最も傷つくダメ出し、「つまらない」。研究所の授業で言われた。「はい」としか言えなかったけど、「じゃあどうすればいいんだよ!」と内心キレた。

「このクソアナウンサーが!!」(朝化粧濃いめ、稽古後ほぼすっぴん40代女性)
…セリフを「きれいに」「上手に」しゃべる事だけに集中した結果のダメ出し。稽古中、相手役の先輩は全く私の方を見てくれなくて、毎日泣きながら稽古してた。どうしたらこっちを見てくれるか考えて、がむしゃらにセリフをぶつけて必死にリアクションしまくってたらいつしか見てくれるようになった。打ち上げで、演出家から「やっとクソアナウンサーから芝居らしくなった」と褒められた(?)。

「寄り目」(普段はめっちゃ声小さいのに急に大声出して大女優にキレられる50代男性)
…初舞台の時のダメ出し。マジで意味わかんなかったけど、共演者は全員爆笑してた。寄り目って言われたことより爆笑されたことの方が傷ついた。要するに、視野が狭くなってるってことを言いたかったらしいのだけど、先輩には「お前、比喩じゃなくて本当に寄り目になってるからな!」と言われた。

「その芝居は、犯罪ですね」(たまに無言で舞台面に上がってきて何もせずに演出卓に帰る50代男性)
…これは未だに全くわからない。ダメだってことしかわからない。今は笑えるけど、大真面目に言われるとなかなかショックです。この言葉がキョーレツすぎて、どのシーンのどんな芝居に対して言われたのかも思い出せない。ちなみに、このダメ出しを隣で笑って聞いていた先輩はその後「次その芝居したら死刑」と言われておりました。

「大っ嫌いな、生肉…!」(酔っ払ってバラシして骨折した60代男性)
…ダメ出しじゃないけど、ロミオとジュリエットの「愛しいモンタギュー…!」という台詞のニュアンスについて力説された時の一言。憎むべき相手を愛しいと言う、その内面の葛藤をその演出家が大好きな生肉に託して語られた。説明下手かよって思った。

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いかがでしたでしょうか。他の役者仲間が言われてきたことに比べたらこんなの屁でもないけど、意外と心に残るものですね。当時は羞恥と憎悪と自己嫌悪にまみれたエピソードでも、時が経てば笑えます。そんな私も少しずつ経験を積み図々しくなり、演出家をむやみに恐れなくなった今、これからの役者人生どんなことを言われるのか楽しみですらあります。動じない心!!!

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